『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?』という本を読み、「意外とマーケティングって面白いかも」と思えたので、内容をシェアします。
この本は、日本企業のマーケティングをわかりやすく教えてくれる1冊。
メルカリ・ヤフオク以外にも、LINEやスタディアプリ、オイシックス、エアークローゼット、プチッと鍋(エバラ)といった身近な製品やサービスを取り上げながらマーケティングの基礎を説明してくれます。
- 第1章 なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?
- 第2章 なぜLINEは日本人の心をつかんだのか?
- 第3章 なぜスタディサプリは月980円という破格なのか?
- 第4章 なぜオイシックスはママたちに支持されるのか?
- 第5章 なぜエアークローゼットには返却期限がないのか?
- 第6章 なぜエバラの「プチッと鍋」はヒットしたのか?
- 最終章 なぜアマゾンはすべてを破壊しようとするのか?
とりあえず気になるところから読んでみるのもOKです!
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目次
【はじめに】マーケティングとは人々の生活や人生を豊かにするためにある!
私がそうだったのですが、「そもそもマーケティングって何をしてるんだ?何に役立つんだ?」と疑問に感じている人もいるかも知れません。
そんなマーケティング初心者からの問いに対し、著者は次のように述べています。
マーケティングとは、人々の生活や人生を豊かにするためにある!
なんとなく「マーケティング?一部の人には有益だが私には関係ないだろう」といった先入観があったのですが、「自分にも関係のあることなんだ」ということがわかりました。
女性がメルカリに、男性がヤフオクに惹かれる理由
本書のタイトル、女性がメルカリに男性がヤフオクに惹かれる理由についてですが、STP理論(=狭義のマーケティング戦略。この言葉の意味は後で詳述します)によれば、男女の生物学的・心理学的な違いが関係しているそうです。
生物学的・心理学的な違いが関係……???
どういうことかというと、男性には狩りに出て食料を調達するという原始古来の役割いわゆる狩猟本能が備わっているため、競り要素の強いヤフオクに引かれやすい。 一方、女性は対話したり共感する楽しさを伝えるサービスであるメルカリに馴染みやすいという視点です。
言われてみればたしかに私にも思い当たる部分があります。私にとってメルカリの何が楽しいかと言うと、お金が稼げるのはもちろん嬉しいのですがそれ以上に、自分にとって不要になったものが誰かにとって必要なものであると知ることができる点でした。
ちなみにヤフオクやラクマも経験あるんですが、ヤフオクはなかなか競りに勝てないので離脱し、ラクマは商品数がメルカリに劣るので遠のいています。
ただ、ラクマに関してはメルカリになかったものが見つかったりして、モノによっては穴場かなと思います。直近でも「え、この本がこの値段で売られてる?(しかもまだ誰もいいね付けてない!)」みたいな発見もありました。
STPって?
話をマーケティングに戻しまして、本書ではメルカリやヤフオクを事例としてマーケティングの基本「STP」を解説してくれます。
STP……???
私は初めて聞いた言葉ですが、STPについてざっくりまとめると次のようになります。戦略を立てる上で必須らしいです。
Segmentation(セグメンテーション) | 市場を切り分ける切り口(ex性別や年齢学歴) |
---|---|
Targeting(ターゲティング) | 自社が狙うセグメンテーション(切り口)を決定すること |
Positioning(ポジショニング) | 他社と差別化できるポイントを見つけること |
それぞれの頭文字を取って、STP。
STPをやらずに市場全体を相手にするには、どんなに大企業でもリソースが足りません。
何か新しい製品やサービスを作ろうとしても、せいぜい万人受けするものしか作れずユーザーの心をつかむことはできないんです。
だからこそ STPをしなくちゃいけないよ。だって、STP分析を行えばユーザーの心理パターンや行動パターンの違いが整理できるんだから!
……と、まあこういうことです。
- 「STP」とは①切り口②ターゲット③差別化の頭文字
- STP分析しなければユーザーの心を掴む製品はつくれない
- STP分析でユーザーの心理や行動を知た上で製品を世へ出すべし!
やみくもに新商品を出してもヒットしないしそもそもリソースが足りない。だから「誰へ」「どのように」刺さるモノを出していくか戦略を立てようってことですね。
メルカリとヤフオクをSTP分析してみると?
さてメルカリとヤフオクをSTP分析した結果、メルカリとヤフオクの売り手・買い手の心理はそれぞれ下図のようになります。
売り手の心理 | 買い手の心理 | |
メルカリ | 共感してくれる人に売りたい | 安心・納得して買いたい |
ヤフオク | 競わせて高く売りたい | 競いながら買いたい |
上記を踏まえたうえで、男女別の心理をおさらいします。
一般的に男性は競うことを好み、 女性は共感を好むと言われます(※個人差はありますが、あくまで一般的に)。
したがって、やり取りや交渉の過程を楽しむメルカリは女性になじみやすく、競り要素の強いヤフオクは男性に馴染みやすいサービスだ、ということが言えるのです。
サービスの特徴 | 特徴から馴染みやすいターゲットは? | |
メルカリ | やり取りや交渉の過程を楽しむ | 共感・調和を大事にする「女性」 |
ヤフオク | 競り要素が強い | 狩猟本能が備わった「男性」 |
メルカリ=癒やしスポットだとしたら、ヤフオク=戦場、という例え方もされていました。
へ〜なるほどな〜。
なぜ LINE は日本人の心をつかんだのか?
次章で取り上げられていたLINE の事例も非常に面白かったので、あわせて紹介したいと思います。
章のタイトルは「なぜLINE は日本人の心を掴んだのか?」。
え、なぜ……?
イノベーションの普及過程を表す5段階
LINEの章では、イノベーションの普及過程を学ぶことができます。
イノベーションとは「それまでなかった全く新しい製品やサービス」のこと。メルカリやLINEもイノベーションです。
そして、イノベーションが普及する過程を早い方から5段階で表すと以下のようになります。
段階 | どんな人? | 市場全体に占める割合 |
①イノベーター(革新者) | 新しいモノ大好き!とにかく試すよ! | 2.5% |
②アーリーアダプター(初期採用者) | 新しい流行に敏感!自分で情報収集するよ! | 13.5% |
③アーリーマジョリティ(前期追随者) | 新しいモノを取り入れることに慎重。とは言え、全体の中では早めに取り入れる。 | 34% |
④レイトマジョリティ(後期追随者) | 新しいモノを取り入れることに懐疑的。まあ、みんなが使ってるなら使うよ。 | 34% |
⑤ラガード(遅滞者) | 保守的。定番になったら使ってやってもいいよ。 | 16% |
この5段階について、アメリカの社会学者エヴェリット・ロジャースという人は、次のように述べました。
ロジャースさん:「①と②の層を捉えることができればヒットするよ」
つまり、イノベーターとアーリーアダプターを動かすことができれば、その製品やサービスは市場全体に広く普及するだろうという見方です。
これに対し、アメリカのマーケティング・コンサルタント、ジェフリー・ムーアは「ロジャースはああ言ってるけど、本当にそうだろうか?」と疑問を呈します。
ムーアの考えは次のようなものです。
ムーアさん:「16%だけじゃ無理っしょ。②と③の間には、すっげー深い溝があるんだから。①と②と③を足した市場全体の約50%を超えたら、まあヒットするんじゃね?」
これがかの有名な「キャズム理論」です。キャズムとは日本語で「溝」を意味します。
LINE がキャズム(溝)を越えたのはいつ?どうやって?
ロジャースとムーアの説によれば、 ①と②の合計16%を超えて17%に普及した段階で「キャズムを超えた」と見ることができます。
LINEがキャズムを超えたのは、2019年6月。
へー!意外じゃないですか?最近のことですよね。それよりずいぶん前から、ほとんどの人が LINE を使っていましたから。こうやって見ると、キャズムってほんと深いんだなと思います。
では「どうやって」 LINEはキャズムを超えたんでしょう?
LINE がキャズムを超えられた理由について、本書では以下の要因を挙げています。
- 「クローズド」という LINEの特徴
- 「みんなと一緒が安心」という日本人の行動心理
- 外部環境
ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
①クローズドにこだわって差別化
1つ目は「クローズド」という LINE の特徴です。 LINE が出た当時(2011年)は、 mixi、Twitter、Facebook など「オープン」なコミュニケーションツールがすでに多くのユーザーを獲得していました。そんな中、LINE はあえて「クローズド」な環境にこだわり他との差別化を図ったのです。
②みんな一緒が安心!という日本人の行動心理を利用
2つ目は、日本人の行動心理をついたものです。「仲間外れになりたくない」という心理がより強く働くのは、オープンな場所よりクローズドな場所です。LINE は最初から大きなオープン市場を一気に狙うのではなく(その領域ではすでにTwitterやFacebookが幅を利かせていた)、大きな市場の中にクローズドの小さなグループをいくつも作ってその中で同時多発的に「みんながLINEやっているよ」「乗り遅れると仲間はずれになるよ」という状況を発生させて、キャズム超えを早めたのです。
③外部環境(偶然要素が強い)
3つ目の外部環境については、 具体例が挙げられていました。
- 2011年3月:東日本大震災
- 2012年:日本人のスマホ普及率が5割に
- 2019年10月:消費税増税(ポイント還元)
これら外部環境の追い風もあり、LINE は日本人に広く受けられるようになったのです。
消費税増税はこれから起こることなのでLINEにとっても他の会社にとっても正念場です。
LINE の真の目的……それは巨大エコシステム構築!
LINE と言うとコミュニケーションツールのイメージがかなり強いですが、LINEアプリのウォレット欄を見ていただくとわかるように、送金機能やコード支払い、LINE ポイント、クーポン、保険、スマート投資、ショッピング、証券など実に多様なサービスを提供していることがわかります。
「QRコード決済に手を出したり、金融サービスに手を出してみたり、迷走してるなあ……。一体 LINE はどこを目指してるんだろう?」
いろいろ疎い私はこのように思っていました。
本書によると LINEの真の目的とは、コミュニケーションアプリLINEを起点とした生活サービス全般の支配だということです。
これらからの時代はエコシステム全体で戦えるプレイヤーのみが生き残る
本書によると、3年後に生き残っていられるのは一部で覇権を握った企業ではなく、エコシステム全体で儲けられるプレイヤーのみ!
LINEの真の目的である「巨大エコシステム構築とそれによる生活サービス全般の支配」が達成されるかどうかは、LINE Payにかかっています。
最近いろんな企業がQR決済の覇権を狙って凌ぎを削っていますよね。
一消費者として「ポイント還元率が高ければ高いほどありがたいな〜」程度の認識でしたが、数年後の生き残りをかけた仁義なき戦いがまさに繰り広げられているのだと分かりました!
しかも、日本では QRコード決済そのものがキャズムの手前。
QRコード決済がキャズムを超えた時に、より多くのユーザーから信頼を得ているサービスとそれを提供できるプレイヤーだけが今後も生き残って行けるのです。
そのためにLINEはいろんなサービスをユーザーに提供し、ユーザーの信頼・信用を得るために動いています。
感想:マーケティングって分かれば面白いかも!
本書を通して、マーケティングに対する「なんか難しそう」という先入観が少し薄まった気がします。
マーケティングを知っていると世の中や流行について「これがなぜヒットしたのか?」「これからどんなイノベーションが出てくるか?」という視点からも楽しめます。
本記事ではメルカリ・ヤフオクとLINEの事例を取り上げましたが、他にもスタディサプリやオイシックスエアークローゼット、プチッと鍋の事例が章単位で取り上げられています。
好きな企業や気になった章から選んでもらうといいかなと思います。
【生き残りのヒント】とにかく別格のAmazon。日本企業にとって重要な視点とは?
本書最終章ではAmazonが取り上げられてるんですが、ここだけ読んでもAmazonの別格具合が分かるなあと思いました。
著者曰く、日本企業にとって重要なことは「もしAmazonが自分たちの業界に進出してきたら?」 と考えることだそうです 。
- Amazon が新しい「当たり前」を生み出すとしたらそれはどんなものだろう?
- 新参者だとしても業界の本質を見抜くことに長けたAmazonは、われわれの業界のどこに目をつけるだろう?
Amazonの進出前提でシミュレーションをしてみて、自らを変革すること。Amazonより先に自らを破壊すること。
このことは日本企業にとって重要な視点である、というコメントで締めくくられていました。