書評

齋藤孝『読書する人だけがたどり着ける場所』読んだメモ

齋藤孝さんの『読書する人だけがたどり着ける場所』という本を読んだので、メモしときます。

こんな人へおすすめ
  • 読書の楽しみ方や効用を知りたい人
  • 読書する習慣がなくて何をどう読めばいいか分からない人
  • ネットで情報は手に入るしべつに本なんか読まなくても良いんじゃない?と考えている人

結論から言うと「読書したほうが教養とか身につくし、人として深みが出てくるし、人生が面白いよ」ってことを伝えています。その上で「じゃあどう読んだら良いだろう?」って具体的方法を紹介してくれます。

ちなみに私は小さい頃から読書が好きなのですが、最近ふと「ザル読みになっていないか?本ってどう読むと良いんだっけ?」と疑問を抱いたので、この本を取りました。

読書時間ゼロの大学生は53.1%

読書時間ゼロの大学生が過半数を超えたそうです。

では大学生が文章を読まなくなったのかと言うとそうではなく、彼らはインターネットで文章を読んでいます。

「情報化時代」と言われる現代の人は活字離れを起こしているわけではなく、読書への向かい方が変わったというのです。

しかしここで注意しておかなければならないことは、ネットで文章と読むことと読書は違うということです。この違いがあるからこそ「情報?文章?ネットで読めばいいじゃん」が通用しないというのです。

ではいったい何が違うかについて著者は「コンテンツへの向かい方」を挙げています。

ネットと読書の最大の違いは「コンテンツへの向かい方」

ネットで文章を読む時って、1つのコンテンツと向き合う時間が短いです。

ネットニュースを見ていても広告に目を惹かれたり、LINE通知が目に飛び込んできたりして集中力が削がれてしまいます。

文章だけではなく音楽を聴くときも同様です。

イントロを聴いて「これはあまり好きじゃない」と思ったら我慢できなくなって次の曲を探し始めてしまうことがあります。そこでいきなりサビから入るような曲の作り方をしているアーティストの方もいるそうです。

金魚すごい

2015年にマイクロソフトが発表したところによると、現代人が1つのことに集中できる時間はたった8秒しかないそうです。

8秒。

2000年には12秒だったそうなのでこの15年間で4秒短縮しており、その時間は金魚の集中力(9秒)より短いそうです。

金魚が9秒間1つのことに集中しているということがそもそも驚きですが、とにかく現代人の集中力は低下しています。

話が少しそれましたが、ネット上で文章を読む時、私たちは「読者」ではなく「消費者」だと著者は述べています。

「これはつまらない」「こっちは面白かった」というように、せわしく情報にアクセスしている状態です。

このような向かい方では人生が深くなることはありません。

一方で読書とは、じっくり腰を据えて話を聞くような構えだと著者は言います。

映画館で映画を見ている時と似ているかなと思うのですが、本を読んでいてちょっと退屈な場面があっても辛抱強く読み進めることがあります。

必ずしもそんなことばかりではありませんが、まあ確かにスマホで文章を読むときに比べたら、「もうちょっと向き合ってみるか」と思える時間は長めではないでしょうか。

そうやってじっくり腰を据えて本を読めば、読んだ内容が私たちの体験として刻まれます

と聞くと「読書と体験って矛盾してる」と思う人もいるかもしれません。

私もそういう考えでした。

なんとなく、読書って受動的。体験って能動的。だから正反対。という風に感じていたのです。

しかし著者は「私は読書と最近は矛盾しないと考えています」と言います。

私は読書と大抵は矛盾しないと考えています。本を読むことで、「これこれを体験してみたい」というモチベーションになることはありますし、それ以上に、言葉にできなかった自分の体験の意味に気づくことができます。
実際の体型を何十倍にも活かすことができるようになるのです。

「なるほど〜」と思います。

読書は体験の入口と出口どちらでにもなれるんですね。

入口(きっかけ)というのはなんとなく共感できましたが、出口にもなる(=過去の体験の意味に気づくことができる)というのは発見でした。

さて。

では具体的にどういうふうに読むと読書の効用を高められるんでしょう?

ぼーんやり目が文字を追ってるだけの時もありますが、そういう読み方をした本の内容はほとんど覚えていません。

本書では読書の読み方についていろんなパターンを話しているのですが、中でも私は特に「思考力を深める本の読み方」の段落が印象に残ったので、次の段落でまとめていきたいと思います。

ここまでのまとめ
  • ネットで文章を読む時⇒1つのコンテンツに向き合う時間が「短い」
  • 読書する時⇒1つのコンテンツに向き合う時間が「長い」

向き合う時間が長いからこそ、思考力を磨くことができます。

思考力を磨く本の読み方4つ

この本で紹介されている、思考力を磨く本の読み方は4つです。

  1. 自分に引きつけて考える
  2. 対話やレビューを活用する
  3. ツッコミながら読む
  4. 予測しながら読む

勉強系でもフィクションでも使えそうなので、使えそうなものがあれば実践してみてください。

読み方1.自分に引きつけて考える

文章を読んで「あ、そういうことか。なるほど〜」と納得することも大切ですが、さらにもう一歩進めて「これは自分の場合の何にあたるだろう?」と考えることが大切だということです。

たとえばサンテグジュペリ『星の王子さま』に登場する「狐」というキャラクターが自分にとっての何か想像してみるということです。

答えなんて無いので、とりあえず想像すれば良いんです。

  • このキャラクターは自分にとっての誰だろう?
  • この状況になったら自分だったらどうするだろう?

このように自分に引きつけて読書していくことで「物語の筋を理解しただけでは到達できない深みが見えてくる」と著者は言います。

また本を読んでいてハッとする部分があったとしたら、きっとそれは自分の記憶や考えに繋がりがあるからだと言うのです。

  • どうして今自分はハッとしたのか?
  • なぜこのシーンが印象に残ったのか?
  • なぜこのキャラが好きなのか?
  • なぜこのキャラが嫌いなのか?
  • なぜこの展開に納得いかないのか?
  • どういう展開だったら嬉しかったか?

このように読書しながら自分の感じ方や、作品に込められたメッセージを読み取ろうとすることで思考力は磨かれます

読み方2.対話やレビューを活用する

思考の深堀りを続けるためには、アウトプットが有効です。方法はさまざまです。

  1. 気になったところをメモする
  2. 感想を人に話す
  3. (感想を話す相手がいなければ)レビューを読んで賛成か反対か一人で考える
  4. 本のポップを書いてみる

とっつきやすいのは4番目の「本のポップを書いてみる」だと思います。

長文を書くことが苦手な人でも、SNS のおかげで短い文章を作るのに慣れているという人は多いでしょう。

そこで、本や文章を読んだらTwitterに感想文を投稿してみるんです。最後まで読み終えた時じゃなくても良いと思います。

感想文を作る時は、次のポイントに気をつけると魅力が伝わりやすくなるそうです。

  • 誰におすすめしたい本なのか
  • それはどうしてなのか
  • この本を読むとどう変わるのか
  • 自分にとってどんな価値があったか

たとえば本書で紹介されている例を使うと、

「夢や目標に向かって頑張っている人に読んでほしい本です。置き去りにしている大切なものはありませんか?」

とか

「目に見えないものの価値をあらためて考えさせてくれる本でした」

というように。

書店に足を運んでみて書店員の書いたPOP を見て回るというのも良いと思います。

読み方3.ツッコミながら読む

本を読んでると登場人物の言動が理解できないことがあります。

そんな時に「これは自分に合わない!さよなら〜」と投げ出してしまうのではなくてツッコミを入れて読めば良いと思います。

個人的には少し昔の本の方がツッコミ入れやすいような気がします。時代感覚や文化が今とは大きく異なるからです。「えっ、なにそれ」「何この時代の考え方?」みたいに、ツッコミどころがたくさん見つかります。

とりあえず読みながら「ちょ」「どゆこと?」と感じたらその都度ツッコんでいけば良いです。

誰に聞かせるわけでもないので、思ったままツッコめばOK。

たとえば私は夏目漱石の『こころ』を読んでいて、いつも先生に腹を立てています。

先生はひどいです。友人であるKを出し抜いて、お嬢さん(後の奥さん)のお母さんに直談判するんです。自分の本心は明かさずにKの本心を聞いた途端、動き出すんです。

「奥さん、お嬢さんを私にください」と。

このシーンを読むたびに「ずっる!」「ひどくない?」 と思います。

ちなみに著者の齋藤孝さんは『君主論』を読みながら「加害行為は、一気にやってしまわなければならない」「そうそう一気に!……って、ひどいよ!」「これに引きかえ、恩恵は、よりよく人に味わってもらうために、小出しにしなくてはならない」「 そうそうちょっとずつちょうだい……って、なんかずるいわ!」

といった感じのノリツッコミを入れ、笑いながら読まれているそうです。この部分を読んでいるだけでも楽しいですね。

(まんがで読破シリーズがとっつきやすい)

古典や名作と呼ばれる本のほうが現代の感覚から見ると大げさだったり理解不能だったりしてツッコミしがいがありそうです。

読み方4.予測しながら読む

「次の展開はこうなるんじゃないかな」と予測しながら読む。

そうすると、名著と呼ばれるものは大体予想を裏切ってきます。

予想を裏切られて「あ〜そうきたか〜!」と感嘆することで、思考が深まりやすくなるというのです。

この方法のいいところは、予想通りでも予想を裏切られてもどっちでも嬉しいということ。

ミステリー小説とか三角関係ものの恋愛小説とかが、展開を予測する楽しみが大きいんじゃないでしょうか。

星新一のショートショートなんかちょうどいいかもですね。びっくりするくらい外れます。

5分後に意外な結末シリーズとか。クオリティにばらつきがあるけど……。

大好きな横山秀夫さんは『64(ロクヨン)』みたいながっつり長編もありますが、短編集も多い。そしてどれも面白い……!!私が最初に読んだ横山本はこちら。ここからハマった。

「どんでん返し 本」とかで調べたらキリがないですね……!

まとめ

読書することが好きでしたが、読書に対して自分が誤解している部分も多いことに気づきました。

これまで私は、

  • 読書はどちらかと言うと受け身の行動であり体験とは異なるものである
  • 読書中はあまり自分で思考しないほうが楽しめる

といった考えがなんとなくあったのですが、

  • 読書と体験は矛盾するものではないし
  • ツッコミを入れながら読んでも楽しいんだ

ということが分かりました。

ネットの文章を読むことと読書することの違いを理解した上で、これからもいろんな文章に触れていきたいなと思いました。